三橋歌織被告鑑定人質問法廷ライヴ

 以前のブログにも取り上げている新宿渋谷エリートバラバラ殺人事件の被告、三橋歌織被告の責任能力を巡って、心神喪失の可能性を指摘した弁護側、検察側双方の鑑定人である精神医に対する鑑定人質問が今日の第九回公判で行われた。

 記録的意味を含めて全法廷ライヴをブログ上に残しておく。

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【法廷ライブ】セレブ妻バラバラ第9回公判(2008年3月10日)【全詳報】

 《三橋歌織被告の第9回公判は、これまでと同様に東京地裁の104号法廷で開かれた。この日は歌織被告の精神鑑定を行った精神科医2人が証言する。証言台が2席並んでおり、2人の証人を証言台に並ばせ、同時に尋問する「対質」(たいしつ)と呼ばれるスタイルで行われるもようだ。検察側の背後には、プロジェクターで映し出すための大きな画面が設置されている。いずれも、裁判員制度を意識した取り組みだ》

 《歌織被告は、今回も髪の毛を肩の下までまっすぐ下ろし、白いタートルネックに白いベストのダウン、白いパンツを身に着けている。予定より2分早い9時58分、河本雅也裁判長が開廷を告げる》

 裁判長「本日は予定通り、両鑑定人の口頭報告を行う」

 《スーツ姿の精神科医2人が、大量の書類を抱えて入廷してきた。前回の公判の最後、裁判長は精神鑑定について、「弁護側が主張していなかった責任能力に関する疑問点が浮かび上がっている」と述べ、責任能力に何らかの疑いがあると鑑定人が判断していることを“予告”している。鑑定人はどこに問題を見出したのだろうか》

 裁判長「両鑑定人の鑑定結果はそれほど相違しないと聞いている。時系列に分けて聞いていく。では木村先生の方からお願いします」

 《まずは裁判長から向かって左にいる、弁護側が請求した「こころのクリニック石神井」の精神科医、木村一優鑑定人が鑑定結果の読み上げを始めた》

 木村鑑定人「まずは生育歴を報告したい。歌織被告の最初の記憶はトイレで父にぶたれているところだった。おそらく幼稚園に上がる前のことで、便座の上で『ごめんなさい』と叫んでいたけどやめようとしなかった」

 《小学生になって以降も、証人として法廷でも証言した父親の暴力が、歌織被告に大きな影響を与えたことを指摘していく》

 木村鑑定人「小中学校のとき、色んなことがあったはずだがあまり覚えていない。ただ、父がかなり体罰に近いことを繰り返していた。父は弟の野球に熱心で、何事も弟の野球優先。歌織被告は父の顔色をうかがっているという状況だった」
 木村鑑定人「高校は女子高。父が決めた。大学も父が決めた。父は昔から『女はスチュワーデスになるもんだ』という勢いだった。歌織被告は経済学部に行きたがったが、『お前、男漁りに行きたいのか』と言われた」

 《分析の報告は、歌織被告の性格に移る》

 木村鑑定人「何人かの知人が語っていることによれば、明るくて優しく、単純で純粋。喜怒哀楽が激しいなど、聞き直すと少しニュアンスが違うところもあるが、さまざまな表現があった。視野が狭い印象があり、物事を第三者的に、客観的に見ることが少し苦手な傾向がある」

 《話が熱を帯び、木村鑑定人は大きな手ぶりを交えて説明している》

 木村鑑定人「生育の注目点は、父からの暴力や体罰。父は否定していたが、(父と母の)別々に聞くと、頻繁にあったことが語られた。理由を説明することはなく、『泣けば許されると思っているのか』と追い打ちをかけるような状況だった。父の暴力は虐待の構図に近く、深刻な心理的影響が推認される」

 《「虐待」という言葉で父による暴力の実態を表現した鑑定人。その非難は母へも向かう》

 木村鑑定人「父は家族の意見に従うことは少なく、母も止めずにいた。結果として、きつい言い方だが共謀関係になる。母にも不信感を抱いたことがあったようだ」

 《歌織被告は前を向いたまま涙を流し、手でふいている》

 木村鑑定人「DV(配偶者間暴力)によってなぜ両親が保護しなかったのか。ここに最大の理由がある。感情を安定させることができず、動揺しやすくなったり、鈍くなった。常に叱責を受けていると、いちいち傷ついてはいられなくなるからだ。対人関係でも警戒したり、深い関係にならない傾向になる」

  《木村鑑定人の報告が続く。生育歴から見た被告の性格を次のように総括した》

 木村鑑定人「虐待的な親子関係、生育歴と考えられる。それが(人を)警戒したり、(人と)冷めた関係になることに影響した。以上が生育歴についての報告だ」

 《続いて、鑑定人は犯行に至る経緯を語り始めた。祐輔さんとの出会いからだ》

 木村鑑定人「祐輔さんと出会ったのは平成14年11月。当時、被告はある男性との関係、いわゆる不倫関係にあった。この辺りがうまくいかなくなっていて、そういうころに祐輔さんと出会って、関係ができたのはある意味自然だった。祐輔さんが被告にアプローチして、一緒に住むことになったのが14年12月27日ごろ。色々なやり取りがあったが、(15年)3月に結婚することになった。最初の暴力は結婚して1週間後ぐらいのこと。被告が職場の人と話していると、『誰と話しているんだ』ということになって、携帯を投げつけ、平手で殴った。似たような暴力は結婚前もあった」

 《続いて鑑定人は2度目の暴力を報告し、祐輔さんによる暴力の構図を描き出した》

 木村鑑定人「一番激しい暴力になったのが、15年8月に武蔵小山のマンションに引っ越したころ。きっかけは水道の手続きがうまくいかなかったことで、突然殴ってきた。被告を押し倒したり、髪をわしづかみにして引きずり回したりした。それほど(祐輔さんは)興奮していたのに、眠って起きると平謝りするという構図だった。ときには友人を呼んで何時間にもわたって謝ったり、土下座する姿を見せたりする。その繰り返しだった。配偶者間暴力(DV)自体がずっと毎日続いていたかと言うと、ある時期はあって、ある時期はない、またある時期はあるという感じだった」

 《鑑定人の説明は祐輔さんの暴力を受け、歌織被告がシェルターに保護された場面に移る。その後なぜ、歌織被告は祐輔さんのところに戻ったのか。鑑定人からその理由が明らかにされた》

 木村鑑定人「17年6月22日にシェルターで保護された際、当時診断した医師は心的外傷後ストレス障害(PTSD)と判断した。(被告は)当時、『自分がいけないんじゃないか』と考えていて、(医師は)離婚を強く勧めた。診察した医師も(被告が)DV被害に遭った女性と考えて不自然ではないということだった。結局、(被告は)祐輔さんの元に戻っているが、その最大の理由は性的な写真を撮られていたことにある。その写真を『知人にばらまく』などの脅しが当時あった。このことについて、(被告は)鑑定が始まった前後からやっと話し始めた」

 《祐輔さんからの脅しは写真にとどまらない。鑑定人は続いて、別の脅しについて語り始めた》

 木村鑑定人「17年1月に万引した経緯についてだが、当時(被告は)DVに悩んでいて、もともとお酒をほとんど飲めないのに、お酒を飲んだり、薬を飲んだりすることがあった。どういう薬かは正確には分からないが、それによって少しハイになって万引した。万引したことも『みんなに知らせるぞ』という脅しが(祐輔さんから)あった」

 《歌織被告がシェルターから戻り、暴力の形態が変更した》

 木村鑑定人「(被告が)シェルターから出て以降、暴力の形態が変わった。直接殴るよりも、両手を挙げてわざとぶつかって、被告がどこかにぶつかったりという形態になった。そこで祐輔さんは『そういう暴力は未必の故意なので暴力ではない』という主張をして、被告は未必の故意の意味が分からず、(祐輔さんが)自分のことを困惑させていると思っていた。鑑定の終わりのほうまで、未必の故意が暴力ではないということを(被告は)信じていた」

 《祐輔さんによる暴力から、歌織被告がどのような心理状態にあったのかについて、鑑定人はまとめに入る》

 木村鑑定人「このようにDVを受けていて、(シェルターで)PTSDという診断もつき、その後もそうだったと思う。フラッシュバックや家にいないで外に行くという回避行動を繰り返した。あとは眠れないとか、誰かにいつも見られているという緊張感、不安感があった。シェルターから出た後は被告も言い返したり、(祐輔さんとの)やり合いになっていた。ただ、暴力になると(男女の)差があり、夫婦ゲンカのレベルを明らかに逸していて、暴力というものだった。その後は祐輔さんはすやすやと眠ってしまい、(被告は)暴力は現実ではなかったのではないかと思う繰り返しだった」

 《木村一優鑑定人は、夫の祐輔さんに暴力をふるわれていたという歌織被告の話から、その精神状態を明解に解説していく。まずは、暴力をふるった後の祐輔さんの様子が語られる》

 木村鑑定人「目が覚めると祐輔さんは土下座して謝り、友人を呼ぶ。そうして、歌織被告が祐輔さんを一方的に責め立てているような様子を浮き立たせる。それを見ている周囲の人間は、祐輔さんの方についていく。こうして囲い込みの構造が完成していく」

 《鑑定人が孤立していく歌織被告の様子を語ると、被告人席に座っている歌織被告は顔を上げ、記憶を確かめるように遠くに視線をやった》

 木村鑑定人「歌織被告は、鼻の骨が折れているという話は(不倫相手の)A男さんを除き、誰にも話していない。シェルター退所後、DV(配偶者間暴力)の話も友人に話していない。唯一、牧師さんがそういうニュアンスを受け取ったと話しているが。DVの加害者は何らかの介入がなされないままでは、シェルター保護くらいではDVがなくなることはありえない。歌織被告は誰にも話せず、DVは繰り返された」

 《当時の様子を思い出したのか、歌織被告は左手で左ほおを押さえ、うつむいた。長い前髪が、顔を覆い、その下の表情は見えない》

 木村鑑定人「DVがなくなっていたとしたら、祐輔さんに相当の変化があったと考えられるが、平成18年3月15日にも祐輔さんには同じような行動パターンがみられる。歌織被告が感情的になっているところに友人が呼ばれ、祐輔さんは平謝りした。これは(以前と)同じパターンなので、シェルターを出てから、祐輔さんのDVがなくなっていたという仮説を立てるのは難しい。18年5月の歌織被告のノートにも、暴力を受けたと残っている」

 《歌織被告は今度は、顔を上げて前を見た。鑑定人は、祐輔さんが歌織被告を脅すのに使ったという性的な写真について証言していく》

 木村鑑定人「DVには性的暴行も含まれ、それをばらまかれると脅されていた。なぜ逃げなかったかというと…DVで囲い込みがあると逃げられないということでも説明できるが、性的な写真を知人にばらまくと脅されていたことは、一層逃げられない理由になる。この話を語れば有利だが、歌織被告はかたくなに語るのを拒んでいた」

 《歌織被告は再びうつむくと、右手に握りしめた、白地に青とピンクの模様が入ったタオルで涙をぬぐう。ここで木村鑑定人の証言は終わり、検察側請求の鑑定人である国立精神神経センター精神保健研究所の金吉晴氏が証言を引き継いだ》

 金鑑定人「『写真をばらまく』と脅されたという話の信頼性は高い。歌織被告は(祐輔さんの)ご遺体の一部を袋に入れるとき、一度遺体を袋から出して、写真が入っていないか確かめた」

 《性的な写真をネタに、祐輔さんから脅されていたという歌織被告の話の信頼度は高いとする金鑑定人。歌織被告がなぜ逃げられなかったのかという分析を続ける》

 金鑑定人「DV被害を受けた3割くらいは(元の場所に)帰ってしまう。また、祐輔さんは激しく謝罪した。歌織被告は祐輔さんを激しく叱責したが、DV被害者が怒りっぽくなってしまうのはあり得ること。この3点は、DVを証明することにはならないが、否定することにもならない」
 「シェルターから帰宅した後のDVの被害証拠はないが、歌織被告は過敏性を有していたので、(祐輔さんが)写真のことを言っただけでも相当強い恐怖があったと思う。祐輔さんは暴力をやめたつもりでいたかもしれないが、歌織被告は相当強い恐怖を持っていただろう」

 《さらに金鑑定人は歌織被告がこの当時、新たな精神障害を抱えていたと証言していく》

 金鑑定人「歌織被告は、(この当時の精神状態を)『自分の周りに風船がある』と言っているが、これは解離性障害、特に離人、周りから引き離されたような感じを持っているということだ。18年秋ごろからは、祐輔さんの借金返済問題で再び暴力が始まったというが、(歌織被告は)その当時から夜眠ることができなくなった。コーヒーや濃い緑茶といったカフェインを(多く含む飲み物を)取るようになった。睡眠も1日4~5時間になった」
 「歌織被告は、『祐輔さんの寝顔を見ていると、血を流している女性が見えた』という。また『助けて』という女性の声が聞こえたり、以前、手相を見てもらった女性の姿が見えたりと、幻覚や幻聴が現れるようになった。また、外から自分を見ているような気分になった」

 《鑑定人は専門用語も交えながら、早口で証言を続けた》

 《検察側が請求した鑑定人、金吉晴氏への尋問が続く》

 金鑑定人「犯行直前の平成18年12月11日、事件の1日前に歌織被告は祐輔さんとケンカをし、その夜は眠れなくなった。11日には祐輔さんの浮気をしたテープ(交際女性との電話の会話を録音したテープ)を入手し、『これで離婚できるはず』と、一種の解放感を味わっていた。その日に母が上京すると言っており、『母が来る前に決着を付けよう』と思い、祐輔さんに電話をしたが怒鳴りつけられた」

 「そして強い恐怖感を抱いて、友人の○○さん(実名)を呼び、祐輔さんには早めに帰宅するように依頼して待っていた。私たちは○○さんを面接したが、夫を待っている間の被告の様子は『普通だった』と話している」

 《金鑑定人は、ここから歌織被告の精神状態の変化の説明を始める。被告はじっと聞き入った》

 「祐輔さんの帰りが遅く、○○さんは帰宅してしまい、1人で待っていた。そのときから様子が変わり、いつも部屋から見慣れている代々木公園が、暗くて不気味に見えるようになり、孤独感を感じた。これは『未視感』という現象だ。そして部屋の中が不気味で、いつもかわいがっている犬にもさわれなくなった。これも『未視感』といえるだろう」

 「午前4時に祐輔さんが帰ってきたが、話はかみ合わず祐輔さんは寝てしまった。それから歌織被告は『地響きが聞こえるような感覚、体が二つに割れてマグマが吹き出すような感じを覚えた』と言った。不安、不穏を感じる、強い情動反応といえる」

 「その後、血を流している女性の姿が見えてきた。歌織被告はそのとき『もしや自分の姿かもしれない』と思ったという。その後、意識がぼんやりしてきて、気づくとワインボトルを片手に持っていた。そして気がつくと祐輔さんの枕元に座っていた」

 「血を流した女の姿の幻覚が浮かんできて、視野が明るくなりフラッシュのように様々な映像が浮かぶという幻視、幻聴が見えた。これは『夢幻状態』というものだ。視野が明るくなっていろいろ見える。歌織被告は『死ぬ前の走馬燈のようなものかと思った』といった」

 《幻聴、幻覚についての証言がさらに続く》

 「歌織被告は、『祖母からもらった携帯のストラップが大きく見えてきた』と言った。これは祐輔さんに捨てられたもので存在はしないものだ。そして次には祐輔さんが読んでいた男性雑誌が見えてきた。これは被告が嫌に思っていたものだ。その後、祖母がインターフォン越しに話しかけてくるという、白黒の映像が見えてきた」

 「そしてまた代々木公園の暗い映像が見えた。だが、被告の座っている位置からは公園は見えない。だから、これは幻視ではないかと思われる」 

 《金鑑定人の報告はは、ついに犯行時の歌織被告の精神状態に至った》

 「それから女性の『助けて』、という声が聞こえた。体に鉛が入ったような感じがし、ワインボトルが重く感じた。疲労感があって、『もう嫌だ』とワインボトルを下ろしてみた。この行為については『重くなければ下ろさなかった』と言っている。そして祐輔さんが『何でだよ』といって近づいてきた。額に出血が見えて恐怖を感じて、重ねて殴打した」

 「被告は『一つの映像のように感じた』といっている。その後、隣の部屋で放心状態になった。これは情動反応だ。そして手の痛みに気づいて、血の付いた指紋が盛り上がってくるような感じがした。これは『巨大視』だ」

 「また幻視が見えた。火の粉の舞う中に裸の女性がいて走っていた。女性は火の見やぐらに上って半鐘を鳴らして『速く逃げなさい』と言った。被告はそのとき『あ、自分だ』と思ったという。その後、部屋から朝の光景が見えた。代々木公園が非常にきれいに見えて、精神状態が楽しくなって自分が笑っていることに気づいた。これは一種の強迫感だ」

 「その後、室内を徘徊(はいかい)した。パン屋にコーヒーを飲みに行こうとしたが、血だらけの服の上にコートを着ているのに驚いた。髪の毛にも血が付いていてドライヤーで乾かしたが、ドライヤーがショートした。祐輔さんが壊したのではないかという恐怖を感じた。家の中でも手袋をして、血のにおいが体から離れなかった。これは『幻臭』である」

 「被告は『祐輔さんの存在は逮捕まであった』と言っている。だが事件後に、それまでは一度もなかった幸福感、多幸感を感じたのも事実だ。
事件後、被告はほとんど睡眠をとっていない。ネットカフェで過ごしたりした。遺体を切断するノコギリを買うときも、『ノコギリなんて小学生で使って以来だよ』と歌織被告が言うと、祐輔さんが『お前じゃ絶対できないよ』と言った」

 「遺体を捨てに行くときは、新宿のマクドナルドで寝てしまった。そのときも『お前の負けなんだ。逃げるなら逃げてみろ』と祐輔さんに言われ、『バカじゃないの』と言い返した。頭部を公園に埋めているときも祐輔さんの声で『ありえない』と聞こえた。捜索願を警察署に出しに行くときも、署についたら階段踊り場の鏡に自分と祐輔さんの姿が、白いワイシャツを来ている祐輔さんの姿がはっきり見えた。そして祐輔さんは『ざまあみろ』と言った」

 「警察に行って不安感はなくなって多幸感、平和で落ち着いた気持ちになった。ただ部屋は怖いので、渋谷や青山を何時間も歩いた」

 《検察側請求の鑑定人、金吉晴氏の報告が続く》

 金鑑定人「現在、拘置所にいるが激しい幻覚はないようだ。今では週に1度くらいになった。祐輔さんの存在は霊、霊魂として感じている。(その霊が)法廷では自分の肩からいなくなるため、(どこにいるか)探しているような状態だった。
(これまでに述べてきた歌織被告の話は)一見、荒唐無稽(こうとうむけい)に聞こえるが、信頼できる。なぜなら、歌織被告はとても抑制的に話している。これでもし、被告人が虚偽を述べているなら、専門的知識が必要だ」

 《鑑定人は続いて、医療機器を使った検査結果などについて、スクリーンを利用して非常に早口で説明し始める。最初に、MRI(磁気共鳴画像診断法)を使って脳を輪切りにした画像を示した》

 金鑑定人「本来は左右対称でなければならないのが少し非対称であるが、これは正常の範囲内だ」

 《約20種類の脳波の波形を示したり、脳にブドウ糖が染みこんだ状態の写真を示し、思考をつかさどる機能は正常であると説明。さらに犯行当時、カフェインの摂取量が増えている点については、カフェイン代謝酵素の量に異常がないことを説明する》

 金鑑定人「次に心理検査だが、目から相手の考えていることや感じていることを読みとる能力は低かった。彼女は祐輔さんから受けていた虐待から、人の目を見るのが怖くなっていたからだろう」

 《次に犯行前後の精神症状についての説明に移った》

 「意識はもうろうとした状態。幻視、幻臭、幻聴を感じ、祐輔さんの存在について、実体的意識として幻覚を見る状態だった。気分症状として高揚気分、不安、知覚変容として巨大視、未視感、こういうものが出ている」

 《以上の説明から『短期精神病性障害』と指摘する鑑定人。歌織被告が心神喪失の状態にあったことを説明している》

 「私見だが(歌織被告は犯行時)48時間、寝ていなかったことや、(歌織被告が祐輔さんの不倫状態を暴こうと隠し録りした)ICレコーダーの件で張りつめていた感情が解き放たれたのが、祐輔さんと話すことでまた緊張状態になったことも関係すると思う」

 《午前11時14分、金鑑定人の説明は終わる。うつろな表情で鑑定医の説明を聞いていた歌織被告。説明が終わると髪をかきあげるしぐさを見せたが、表情の変化はほとんどうかがえない》

 《検察側請求の鑑定人、金吉晴氏は、スライドを使いながら「歌織被告は犯行時、急性の精神病状態だった」とする所見を説明した。スクリーンに映し出された脳の断面図や脳波の表を考え込むような表情で見つめていた河本雅也裁判長は、「確認程度に聞きますが…」と切り出し、証言台に座った2人の鑑定人に質問した》

 裁判長「今回は弁護側から鑑定申し出があり、弁護側が請求した木村先生、検察側が請求した金先生に鑑定をやってもらった。木村先生、ただいまの金先生の意見について異論は?」
 木村鑑定人「全くない」
 裁判長「金先生はどうか?」
 金鑑定人「基本的には同じです」
 裁判長「木村先生、殺人や死体損壊は被告の意思のもとに行われたのか?」
 木村鑑定人「それは(歌織被告の)責任能力(の有無)ということか?」
 裁判長「はい」
 木村鑑定人「被告は犯行時、そして死体遺棄時に短期精神病性障害に罹患(りかん)しており、正常能力は欠如していた」
 裁判長「金先生はどうか?」
 金鑑定人「(責任能力を)喪失していたことは、十分想定できる」
 裁判長「金先生は鑑定結果の報告が当初より遅れたが、それは検査を行っていたためか?」
 金鑑定人「犯行時の精神状態について、(歌織被告は)最初の1カ月程度、混乱していて、十分に話を聞くことができなかった。あとは、検査を行っていたのもある」

 《裁判長の短い質問が終わると、弁護側が質問に立った。裁判長の提案で、金氏が検査結果の説明で使用したスライドが再度スクリーンに映し出される。照明を落とし薄暗くなった法廷に、「トラウマ」「PTSD」「離人病性障害」といった文字が浮かび上がった》

 弁護人「先ほどの金先生の説明では、意識障害について(アルコール摂取などの)身体的要因の有無で(歌織被告の)診断名が変わるということだったが、実際にはそのとき生じた精神状況に違いはあるのか?」
 金鑑定人「ない」

 《弁護人は、金鑑定人が歌織被告に行った脳波検査についても質問した。この検査では例外的な脳波である「ポジティブスパイク」が検出されたが、歌織被告の精神疾患を示す根拠となるのだろうか》

 弁護人「脳波検査の結果、脳の器質(的問題)は疑われるのか?」
 金鑑定人「(別の機会に行った)睡眠時の脳波(検査)では、ポジティブスパイクは表れておらず、(今回の検出は)偶発的なものだと思う」
 弁護人「木村先生、器質的問題は推察されるのか?」
 木村鑑定人「(歌織被告は)意識障害で幻視を生じており、それで器質的疾患が疑われたため検査を行ったのだが、今のところはっきりしたものは見つかっていない」
 弁護人「金先生、今後も検査を行って何か分かる保証は?」
 金鑑定人「保証はないが…。犯行から1年以上経っており、犯行時の明確な症状が分からない状況」
 弁護人「当時の症状を断定することはできるのか?」
 金鑑定人「できない」
 弁護人「つまり、何らかの脳の器質的障害を指摘することはできるが、診断名をつけることはできないということか?」
 金鑑定人「はい」

 《弁護人は、死体遺棄など歌織被告のとった行動の合理性について質問する》

 弁護人「被告は犯行時、何らかの責任能力が欠如していたということか?」
 金鑑定人「はい」
 弁護人「被告は当時、買い物をしたり誰かと話をしたりもしているが?」
 金鑑定人「現実感はないが、ある程度まとまった行動ができるということはある」
 弁護人「木村先生はどう考えるか?」
 木村鑑定人「朦朧(もうろう)状態で動揺しているが、動揺の程度によっては合理的な行動もできる。意識障害がある場合、『あれをしよう』と思って、偶然(行動が)合理的だったりすることもあるし、そうでないこともある。一見、合理的にふるまうことはある」
 弁護人「合理的でないと感じる点はあるか?」
 木村鑑定人「死体を遺棄することは合理的ではない。袋から死体を取り出してそこら辺に投げたりは、普通しない。死体を遺棄した行動自体は、かなり合理性に欠ける」
 弁護人「金先生はどう考えるか?」
 金鑑定人「(祐輔さんが)血を流したことにショックを受けた。祐輔さんのDV(配偶者間暴力)被害について嫌悪する感情もあり、『(死体を)どこかに移したい』と考えた」

 《検察側がこれまで「合理性がある」と主張していた犯行前後の歌織被告の行動について、両鑑定人ともに責任能力が欠如している可能性を指摘した。弁護側にとっては有利な証言だが、歌織被告は表情を変えることなく前を向いたままだった》

 《歌織被告に責任能力がなかったことを立証しようと、弁護側が鑑定人に質問を重ねる。歌織被告はやや目線を落としている》

 弁護人「責任能力に影響を与えるのはどんな症状か?」
 金鑑定人「まずは朦朧(もうろう)状態。幻覚も出ることが多くなると影響を与える」
 弁護人「どうしてこの日(犯行日)にそういう状態になったのか。不眠などにあるのでは、というが?」
 金鑑定人「あらゆる精神疾患に不眠はよくない」
 弁護人「(犯行前に)友人が帰ったことは?」
 金鑑定人「友人が一緒のときも本人は不安を感じていた。1人で待たなくてはならなくなり、不安が高まり症状が出た」
 弁護人「症状が出るとどうして責任能力が欠如しているとなるのか?」
 金鑑定人「朦朧状態で幻覚が起きたことで、現実感がない。混乱してしまった。不安感が病的レベルに達していた。適切に判断して行動を制御することが難しい」
 弁護人「遺体の損壊まで時間があるが、責任能力がないことに合理的説明ができるのか?」
 金鑑定人「時間が経っているので、衝動性はなくなっている。残るのは現実感がないこと。犯行は本人にとって現実世界のこととはなっていない。バーチャルリアリティー(仮装現実)のこと。マンションの近くに遺体を捨てているが、自分では精いっぱい遠くに捨てた。現実的な枠組みで判断ができていない」

 《歌織被告は表情を変えず、鑑定人の話を聞き続ける。弁護側は、弁護側請求の鑑定人、木村一優氏にも意見を求めた》

 弁護人「木村先生はどう思うのか?」
 木村鑑定人「朦朧状態が大きい。(犯行を行った平成18年)12月12、13日の4時間くらい、友人が帰った後に暴力への緊張感があった。必ず暴力を受けるに違いないという、これまで感じたことのない恐怖があった。今までにない体験で困惑している。行動を制御するのは難しかった。多幸感とはただ、気分が高まるということではない。不安などを見ないようにする。合理的判断をすることは難しかったのではないか」

 《歌織被告の話に嘘はないのか、弁護側はより主張を強固なものにしようと、慎重に質問を重ねる》

 弁護人「詐病ということは考えられるのか?」
 金鑑定人「特にない。(症例と)きれいに一致した証言になっている。専門知識がなければできない」
 弁護人「本人が刑を軽くしようとしている部分は?」
 金鑑定人「長期の刑を覚悟しているようだった」
 弁護人「本人の話に嘘はあるのか?」
 木村鑑定人「PTSDと犯行の関係が問題になっているとは聞いていた。鑑定を始める前に何度か会って問診をした。(一般人が)PTSDにかかっているふりをすると、(問診で)フラッシュバックがあったようなまねをする。(歌織被告への問診の中で)フラッシュバックの症状があったことを見つけるのが難しかった。被告の症状で主にあるのは眠れない、誰かに追われているということ。PTSDについて勉強していれば、フラッシュバックを主張する。PTSDのふりというのは無理だと思う」

 《弁護側は、詐病の可能性がないことについても見解を求め、『心神喪失』の信憑(しんぴょう)性を高めるための外堀を埋めていった。木村鑑定人は詐病の可能性についてこう結論づけた》

 木村鑑定人「(眠れない、誰かに追われているという)過覚醒(かくせい)から主張するというのは、『ふりをする』にしてはかなり知っていないとできない。勉強していたというのは無理がある。『本当に何か(フラッシュバックで)見えなかったか』と繰り返し聞いたが、一切出てきていない。フラッシュバックでやっと出てきたのがクリスマスツリー。(鑑定人を)信用させるならかなりの能力がないとできないが、そこまでできているとは思えない」

 《質問はここで検察側に交代する。到底受け入れられない鑑定結果に、どう反論するのだろうか》

 検察官「2人で一緒に拘置所で面接したことは何回あった?」
 金鑑定人「多分3回だと思う」
 検察官「共同で聞いたいきさつは?」
 金鑑定人「まず私が電話し、『医学的な問題なので所見は共有しよう』と面接の記録を送付し、『場合によっては一緒に見よう』と」
 検察官「個別に面接の結果も送っている?」
 金鑑定人「やり取りしている」
 検察官「検査は別々にやった?」
 金鑑定人「スライドで見せた検査はすべて私がやった。知能テストやロールシャッハテスト(心理テスト)は木村さんがやった」
 検察官「知能テストなどは問題はなかった?」
 木村鑑定人「IQは正常の範囲。バランスの悪さはあるが、犯行と関係ないと判断した」
 検察官「所見は共通と言ったが、意見交換や調整はした?」
 金鑑定人「打ち合わせをした」
 検察官「犯行に至る経緯と、犯行の前後とに役割を分けたのは?」
 金鑑定人「木村さんから提案があった。お若いので、遠慮して(私に)犯行時のほうをやらせていただいたのかと…」
 検察官「共同鑑定という位置づけでいいのか?」
 金鑑定人「何を意味するか分からないが、見解をやり取りしたことは間違いない」
 木村鑑定人「私としてはそういう(共同鑑定)つもりでやっている」

 《検察側は「心神喪失」の判断が2人別個のものではなく、あくまで共同鑑定による判断であることを指摘したいようだ》

 検察官「金先生に聞く。責任能力については一般的に、是非や善悪を判断する能力と、行動を制御する能力に分けられる。歌織被告にはどの能力がなかったのか?」
 金鑑定人「殺害時には判断能力を発揮する余裕がなかった。強い興奮で制御能力もほぼなかった。その後は、自分が何かをしようとしたときに抑制する能力がほぼなかった」
 検察官「そうすると、殺害時には是非や善悪を判断する能力、行動を制御する能力はなかったのか?」
 金鑑定人「私はなかったと思う」
 検察官「死体損壊、遺棄の際に行動を制御する能力はあったのか?」
 金鑑定人「行動制御能力については踏みとどまって考える力がなかった」
 検察官「木村先生にも同じことを聞く」
 木村鑑定人「殺害時には行動制御能力はなかったと考える。何らかの判断をしたとしても、どんな結果になるかと考えたり、それに基づいて行動することが難しかった。判断能力についてはかなり追い込まれている状況だったので、合理的判断ができたかは疑問だ。死体損壊、遺棄については、現実感がなく、夢を見ているような状況でやっている。抑制して再検討するという行動責任能力について欠如していると思う。判断能力についても合理的な判断はしていないと思う」

 《検察官の尋問が終わらないため、この日は正午から5分回った時点でいったん終了。引き続き24日午前10時から鑑定人尋問が行われることになった。裁判長は「今回の鑑定人尋問で、再び歌織被告に尋ねたいことが出てきた」と述べ、12日午前10時から急遽(きゅうきょ)、被告人質問が行われることになった》
      =(完)

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