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zoom RSS 恋は修羅

<<   作成日時 : 2008/10/28 02:28   >>

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 「恋」はある意味で精神病である。

 「恋」は麻疹のように誰でも罹るが、特効薬もないし免疫も出来ない病である。だから、真実、恋する者の発する「口説き文句」や「決め台詞」が存在するとすれば、それは心の病に冒された者のみが発する事の出来る、特別な霊感によって発せられる言の葉だ。「言霊」という言葉を信じるならば、真実の口説き文句や決め台詞なんて、恋という病に冒された、或いは憑依され、神がかった者からしか出て来ない。

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 古今東西、恋愛を扱った劇、戯曲は枚挙に遑がない。だとすれば、劇作家という仕事をしている人達には、幾らでも有効な口説き文句や決め台詞を言えそうなものだが、実際に「あの劇作家に口説かれた」とか「セクハラを受けた」という話を聞いても、その劇作家さんはろくな口説き文句を言ってない。「ああ、あの大先生にして、そんなちんけな口説き文句しか言えないとは……」と喜んで良いやら悪いやら……逆に、言の葉を扱う劇作家だからこそ、言の葉の持つ力なんてたかが知れていると知っているからか、とにかく、「恋」というものは、言の葉で語り尽くせたり、止揚されたり昇華されたりする代物ではない。目と目があった時に、そこに何かを感じられなければ、それは「恋」ですらない。単にいい女、例えば女優と、肉体関係を結びたいからというようなスケベ心しか無ければ、言の葉を操る事を日常とする劇作家だって、ろくな口説き文句など出て来ようも無いのであろう。

 「恋」は精神病である。

 恋愛関係というものは、男と女、或いはジェンダーを超克していれば同性同士であっても、その精神病を、互いに助長し、補完しあう関係を築く事に他ならない。何故なら、「恋」という病は、社会や共同体のルールとしての一夫一婦制や同性愛に対する禁忌、それら諸々の道徳律から離れたところにあって、その精神の向かうベクトルは、反社会的な行為、反倫理的な営みに向かうしかない。であるが故に、「恋」は社会や世間と対立する。近松門左衛門の一連の心中物が「心中」という行為に帰結していく事の所以は、「恋」という精神の病が、「社会」や「世間」や「共同体」の秩序とは、別のベクトルに向かっていたという事をいみじくも示していたのではないか? 而るに、「恋に落ちる」という事は、即ち「堕ちる」事である。

「堕ちてくれますか? 堕ちて下さい」

 私はこれまで、特に若い頃には尚更に恋物語をしつこく綴ってきたけれども、「堕ちる」という感覚を共有する事こそ、社会からも世間からも跳躍した「恋」のありようであると思われてならない。「婚姻」は社会的、共同体的な営みだけれども、「恋」はその枠組みを超越しているのだ。そういう時に発する言葉は、「夢中だ」とか「メロメロだ」とか「貴女しか見えない」とか、とにかく今の自分が尋常ではないという言の葉と言霊を紡ぐしかないのである。そしておそらく、その言葉を発する前に、恋をしたその主体は存在する事によって、見詰める事によってその思い、その病を体現しているはずなのだ。だから、劇作家は、劇作という営為の中で、必ず恋に落ちるという言の葉、言霊を探すのではなく、台詞の行間から「恋という病」を読みとり、体現する俳優に自分の戯曲を託すのである。

「恋は修羅、いのちは炎、はるかの底に墜としても下さい」

 これは故・岸田理生さんの初期戯曲『臘月記』からの一節。

 寺山修司や岸田理生のラディカルな、反世間的な恋の文言を青春期に読み倒していた私は、自分自身の「恋」、その口説き文句や決め台詞という物を沈黙でしか語り得なくなったのかもしれない。

 恋の道は修羅の道である。人の道ではない。そして「恋」は人を殺す。人の道ではない。そして恋に落ちる、墜ちる事は、人の道から堕ちる事である。だから私は「堕ちて下さい」と言い続け、書き続けるしかない。それこそが、唯一、まっとうな「恋」のありようであろうと思う。何故なら、「恋は修羅」の道なのだから。

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